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NHK『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』ゾンビ誕生の衝撃

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NHK BSプレミアムで放送されていた『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』▽ゾンビ誕生の衝撃~なぜ世界は恐怖したのか?を観ました。

『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』は過去に起こった大きな出来事をさまざまな視点から振り返り、歴史を紐解いていくドキュメンタリー番組です。

今回のテーマはゾンビ映画。昨今『ウォーキングデッド』など、ゾンビを扱った映画やドラマが増えている中、ゾンビ映画の父、ジョージ・A・ロメロ監督がいかにしてゾンビを生み出したのかという内容でした。

視点1.脚本家 ジョン・A・ルッソ

最初の視点はゾンビの記念碑的な作品とされる『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』で脚本を担当したジョン・A・ルッソ。

 

ルッソは映像制作会社を立ち上げたものの手間と金をかけすぎて利益があまり出せていなかったロメロに「みんなで600ドルずつ出しあえば映画が撮れるんでは?」と提案します。それに乗ったロメロが書いてきたものが『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の原案です。

ちなみに↓がロメロが当時作った硬水軟化剤で有名な「カルゴン」のCMです。クオリティが高く評判も良かったそうです。

ロメロが書いてきた初期の脚本ですでに何者かが襲ってくるという設定はできていたもの、それが誰なのか、なぜ襲ってくるのかというところまでに行きついておらず、襲ってくる者は“彼ら”と記されていました。この脚本を読んだルッソが「彼らは死人なのかもしれないな」と言ったところ、ロメロがそのアイディアに賛同して脚本作りが進んでいきます。

死人という設定が決まってからは、死者が理由なく襲ってきた時の人間の行動をひたすら考えたそうです。

 

こうしてでき上がった脚本をもとに1967年6月に撮影がスタートします。襲ってくる死者は「グール」と名付けられ、“噛まれると感染する”、“無表情でゆっくり歩く”、“人を食べる”など今のゾンビにつながる設定はすでにできていました。

 

主演を務めたのは黒人俳優のデュアン・ジョーンズ。当初は白人を主役にしていたものの、プロの役者であるデュアンをつかまえることができたため、ロメロは主役を変更することにします。しかし、当時はまだまだ人種差別が残っていた時代。黒人が主役を務めると差別主義者を刺激しかねません。そんなこともあって、白人スタッフだらけの中デュアンはなかなか馴染めないでいたそうです。

 

1960年代のアメリカというと人種差別に揺れた時代で、学生たちは差別撤廃を訴え自由を求めて奔走しました。しかし、思うように社会を動かすことができず、おまけにベトナム戦争が始まり、大人たちが作った社会への不満が募っていた時期です。

つまり、社会へのやりきれなさを抱えていたのは黒人であるデュアンだけでなくロメロやルッソも同じでした。その思いを知ってデュアンはスタッフたちとも団結していきます。

のちにロメロは「ホラーで怒りを表現してもいいはずだ」「世界を変えられなかった怒りを映画にぶつけた」と語っていたそうです。

 

黒人を主役に据えることで映画は白人対黒人という実社会の構図と重なる形になりました。また、映画内に明らかに黒人虐待を想起させるようなシーンも含ませていたようです。

映画のラストシーンも実社会の構図を反映させます。元々は主人公デュアンが白人に助けられる筋書きでしたが、「黒人という立場上自分は死ぬべき」だとデュアンが提案。その結果、白人の自警団に無為に射殺されるというラストに変わったのです。

 

こうして映画は完成しますが、配給会社に売り込もうした矢先、黒人差別撤廃運動の象徴的な存在であったキング牧師が暗殺され、皮肉にも映画のラストシーンを重なる結果になってしまいます。

ラストシーンを問題視した大手配給会社にシーンの差し替えを求められますが、ロメロはこれを拒否。結局ラストシーンはそのままで小さな配給会社と契約することになりました。

そして1968年10月映画は公開されます。映画はロメロたちの予想を超える反響を呼び、オカルト的な人気がヨーロッパまで広がりました。

 

映画が話題になるにつれて、得体のしれない「グール」はいつしか死者が蘇るというハノイの土人信仰(ブードゥー教)と結びつき「ゾンビ」と呼ばれるようになっていったそうです。

 

 

ルッソの話を聞いていると『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のゾンビや社会風刺は偶然や思いつきがもとになっているように感じます。もちろんロメロが最初から意図していた可能性もあります。どちらにせよ言えるのは、当時を生きていたロメロたち若者の葛藤が生んだ映画だったということです。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に込められた思いがよくわかるインタビューでした。

視点2.特殊メイクアーティスト トム・サビーニ

2人目の視点はロメロのゾンビ映画2作目となる『ゾンビ』(原題:Dawn of the Dead)で特殊効果を担当したトム・サビーニ。

幼い頃に『千の顔を持つ男』を見て独学で特殊メイクの練習していたサビーニ。大学時代にロメロの噂を聞き、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』撮る予定だったロメロに自らを売り込み、メイクとして参加する予定でした。しかし、従軍カメラマンとして徴兵されベトナムに行くことになってしまいます。

 

この時のベトナム戦争での体験がサビーニの心に大きな傷となって刻まれます。インタビュー中も戦争の記憶があいまいでいまだにトラウマが残っているようでした。

毎日のように悲惨な光景を目にする中、サビーニは特殊メイクの勉強だと言い聞かせて気持ちを保とうとしますが、発狂間近の精神状態に追い込まれてしまいます。ついには、突然茂みに銃を乱射し後方へ送り返されてしまったそうです。

帰国後、戦争の後遺症で何年もゾンビ状態に陥っていたサビーニを救ってくれたのは映画でした。『真夜中のカーボーイ』を見て気持ちが解放され、小さな劇団で役者やメイクの仕事を手がけるようになります。

そんな時にロメロから「人の殺す方法を考える仕事がある」と誘いを受け『ゾンビ』の撮影に参加することに。

 

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が世に出た後さまざまなゾンビ映画が作られますが、ロメロは10年もの間ゾンビ映画を作りませんでした(他の作品はいくつか作っていました)。それは、ゾンビに投影する社会問題が見つからなかったから(と番組では語られていました)。

しかし、1970年代後半になると、日本などの台頭もあってかつて鉄の町として栄えたロメロの地元ピッツバーグは衰退し始めます。労働者は路頭に迷い、若者たちは戦争の後遺症で苦しんでいる中、街はもので溢れ物欲に駆られる人であふれかえっていました。

社会の闇から目を反らし偽りの繁栄を見せるアメリカに一石を投じるため、ロメロは『ゾンビ』を製作し始めます。

舞台はショッピングモール。死んでもなお何かを求めてさまようゾンビを無意味な物欲に駆られる民衆と重ね、大量消費社会を批判しました。

 

ロメロは特殊効果に予算をつぎ込み、サビーニに一任します。台本には特殊効果について書かれていなかったそうです。サビーニは戦争で負った傷を癒すかのようにこの仕事に没頭しました。

 

『ゾンビ』はとにかく殺し方のバリュエーションが豊富な映画です。顔面に銃をぶっ放す、ヘリコプターのプロペラで頭を切断する、頭をナタでかち割る、耳の穴にドライバーを突き刺すなど残虐なのに思わず見てしまうようなシーンがたくさんあって見飽きません。ゾンビが人間の内臓をむさぼるように食べるシーンも過激ですがなぜか見てしまいます。

こんな数々のシーンはサビーニの仕事によるもので、その背景にはサビーニ自身の戦争でのつらい記憶があったようです。戦争で悲惨な出来事を目にし、半ば発狂状態になり、それでも映画に助けられたサビーニだからこそ『ゾンビ』の特殊効果ができたのかもしれません。

この番組は3つの視点で構成されていましたが、サビーニだけ切り取っても立派なドキュメンタリーになりそうな感じでした。それほどサビーニの話は重かったしよかった。できるならサビーニ一人にスポットを当てた番組も見てみたいです。

視点3.ゲームクリエイター 三上真司 

3人目の視点は累計7800万本の売り上げる『バイオハザード』シリーズの生みの親、三上真司。

 

大学卒業後カプコンに入社した三上は、入社4年目にホラーゲームを作る企画を任されます。その時頭に浮かんだのが中学時代に観た『ゾンビ』。

何度も夢に出てくるほど印象に残っていて、ゾンビが出てきた時にどう生き残るかをいつも考えていたそうです。この“どう生き残るか”というアイディアをゲームに反映させようと作り出しのが『バイオハザード』です。

 

『バイオハザード』の特徴は映画的視点にあります。カメラで撮っているような映像であえて死角を作り出し、見えない恐怖を演出しています。また密室や気配でも恐怖を演出しています。

ゲームを作り始めた当初は人間の視点だったため、なかなか恐怖を作り出せなかったそうです。そこでロメロの映画を見直しているうちに、さまざまな仕掛けに気づき採用していきました。

『ゾンビ』は『バイオハザード』に着想を与えるだけでなく、恐怖を作り出すという点でも大きく貢献していたようです。

 

三上が『ゾンビ』から読み取ったのは「人間が怖い」ということ。人間らしいところをなくして純粋な人間の怖さだけを残したものがゾンビだと。同じようにロメロも「ゾンビとは、我々自身」という言葉を残しています。

 

『バイオハザード』が作り出そうとしていた時、日本では阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件などが起き、突然起こりうる恐怖、身近に潜む恐怖が人々の心の中に生まれていました。そんな時代だからこそ、三上がゲームに込めた“壊れた世界を生き抜け”といったメッセージが多くの人に受け入れられたのかもしれません。

 

 

ロメロは2017年7月に亡くなりますが、生前6本のゾンビ映画発表しています。

どれも背景にはその時代の社会問題があります。ロメロにとってゾンビとは社会問題であり危機だったようです。

 

番組の最後、ロメロの妻スザンヌがロメロが死の迎える前の姿を語っていました。

ロメロは「現実が怖い、ニュースが怖い、ソーシャルメディアが怖い」と常に言っていたと。さまざまなニュースにアンテナを張って未来を心配していたそうです。

 

ロメロが生前に残した脚本がこれまでに4本見つかっています(そのうち1本は『Road of the Dead』?)。

ロメロはどんな脚本を書き上げていたのか。もし生きていたら、この先起こるであろうトランプ政権や北朝鮮の問題についてどんな脚本を書いたのかも気になります。

さいごに

一時期ゾンビ映画にハマってロメロの映画も全部見たことがあるんですが、ルッソやサビーニの話は特に興味深かったです。映画を観たり文章で読んだりしてゾンビができた当時の時代背景は知っていたつもりだったんですが、本人たちが語っている姿を見るとよりリアルに感じられてもう一度『ゾンビ』を観たくなりました。

なんというか貴重な番組を見た気がします。

 

この番組の再放送はいまのところ予定されていないようですが、NHKオンデマンドで見ることができます。

NHKオンデマンド | アナザーストーリーズ 運命の分岐点 「ゾンビ誕生の衝撃~なぜ世界は恐怖したのか?~」

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